「現代の小説2021 短篇ベストコレクション」の感想
「現代の小説2021 短篇ベストコレクション」を読みました。
おもしろかったです。
一番の目的は、白萩家食卓眺望(伴名 練)。
普段読まないような種類の作品を読めたのは良かった。
ただし、巻末の解説に各著者の略歴を記載してほしかった。
なぜなら、SFの短編集などではそういう略歴が書いてあり、次の本を読むきっかけになるからだ。
登場人物の行動の動機が「金銭絡み」とか「両親の不仲」や「人の死」である作品は、すごく陳腐に感じた。
もしかしたら、そういう事柄に対して関心がないのかもしれない。
一方で、それ以外の行動理由を持つ人物が登場する作品はいいと思った。
また、過去の出来事を登場人物の伝聞の形式で表現している部分は、勢いを失っているように感じた。
これは「ベストセラー小説の書き方」で言及されていた通りだった。(p182)
伝聞ではなく、その場面を描くほうがよいと思った。
収録作品
- 消せない指紋(青柳碧人)
- ミイラ(芦沢 央)
- 家族写真(宇佐美まこと)
- ジモン(佐川恭一)
- ミス・ホンビノスの憂鬱(清水裕貴)
- 隣の部屋の女(白井智之)
- 三日間の弟子(立川談四楼)
- 二人三脚(帚木蓬生)
- あおぞら(原田マハ)
- 白萩家食卓眺望(伴名 練)
- ラスト・ラン(平岡陽明)
- ジャンク(宮内悠介)
あらすじと短評
ネタバレを含みます。
消せない指紋(青柳碧人)
革新的な皮膚移植技術の基礎となる「アップリケ細胞」にまつわる話。
特殊設定ミステリー。
評価:うまいとはおもった
ミイラ(芦沢 央)
詰将棋雑誌に投稿された不完全な作品から、製作者に秘められた謎を解明する話。
評価:発想がすごい
余詰のある詰将棋の投稿作品をとある島のカルト宗教の慣習とリンクさせる、という著者の発想がすごい。
家族写真(宇佐美まこと)
カメラマンを引退した中川のもとに、出世作「家族写真」の中の人が訪れて、真実をかたる話。
評価:まあまあ
構成は巧みだと思う。
ただし、結局動機はありきたり。
作中で起きたことについても、すごい偶然だなって思ってしまう。
ジモン(佐川恭一)
モテない無能社員の心の内側を描く。
評価:いい
なんといっても一行目の切れ味がいい。キレッキレだ。
梶井基次郎の「檸檬」を読みたいと思った。
ミス・ホンビノスの憂鬱(清水裕貴)
水門の近くに係留している船上バーを舞台に、さびれた町のミスコン「ミス・ホンビノス」の募集を通して、橋爪さんの知られざる過去に迫る話。
評価:すごくいい
酸素の薄い暗い海でひたすら大きくなるホンビノス貝と、橋爪さんとが重なる。
隣の部屋の女(白井智之)
評価:嫌い&長い
はじめの章の時点でヤバい話なのがわかってしまう。
デビュー作のタイトルもヤバいようだ。
関わりたくない。というかワンパターンですやん。
この短編集で一番ページ数が多い。
グロミステリーをこの短編集に入れないという選択肢は、ほんとうになかったのだろうか。
三日間の弟子(立川談四楼)
主人公の落語家と信州に住む原との話。
評価:いいとおもう
すこし読みづらいかと思ったが、それもまた味だと思う。
二人三脚(帚木蓬生)
こどもの運動会をきっかけに、はるか昔の友人との二人三脚の思い出を振り返る。
評価:うーん、まあまあ
二人三脚の話で終わるかと思ったら、急に医学の話になった。
あおぞら(原田マハ)
長年二人旅をしてきたナガラとわたしが、ふとしたきっかけで気まずくなった関係を修復する話。
評価:いいとおもう
さわやかな感じ。
ただ、となりの席の女の子とのやりとりはなんだったの?
白萩家食卓眺望(伴名 練)
白萩家に代々伝わる料理帖と、味覚に由来する視覚的な「共感覚」の話。
評価:おもしろい
人間の進化の可能性を感じさせてくれる作品。
なので、SFの短編集に入っていてもいいとおもう。
ラスト・ラン(平岡陽明)
引退する東京の個人タクシーの運転手の最後の一日。
評価:まあまあ
ジャンク(宮内悠介)
秋葉原のジャンク店の息子の話。
評価:いいとおもう
「スペース金融道」の人か。
作品の幅がすごく広い。
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