「日本SFの臨界点[恋愛篇] 死んだ恋人からの手紙」の感想

伴名 練 (編集)「日本SFの臨界点[恋愛篇] 死んだ恋人からの手紙」を読みました。
本書は、SFと恋愛要素を含む短編集のアンソロジー。全9作品。巻末に、SF入門ガイドも併録。
一部、家族愛をテーマとするものも含む。

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もしかしたら、[恋愛篇]と書いてあるものの、同時期に発売された[怪奇篇]に当てはまらないものが収録されているくらいの認識でいいかもしれない。
よい作品が収録されているので、その点で評価が別れてほしくはない、という思いはある。
そんな読後感。

「日本SFの臨界点[怪奇篇] ちまみれ家族」の感想

収録作品

  • 中井紀夫「死んだ恋人からの手紙」
  • 藤田雅矢「奇跡の石」
  • 和田毅「生まれくる者、死にゆく者」
  • 大樹連司「劇画・セカイ系」
  • 高野史緒「G線上のアリア」
  • 扇智史「アトラクタの奏でる音楽」
  • 小田雅久仁「人生、信号待ち」
  • 円城塔「ムーンシャイン」
  • 新城カズマ「月を買った御婦人」

あらすじと短評

ネタバレを含みます。

中井紀夫「死んだ恋人からの手紙」

何光年も離れた戦域にいる恋人から女性に届く手紙でストーリーを展開する書簡体小説。
手紙の届く順序は、バラバラ。

古典SFっぽさがあると思ったら、<SFマガジン>1989年6月号初出だった。

評価: まあよい

藤田雅矢「奇跡の石」

東欧のロベリア共和国の小さな田舎町ホルムは超能力者たちが暮らす村。そこにエスパー研の主人公が調査に行く話。

なめると音が聞こえる結晶、なめてみたい。

評価: よい

和田毅「生まれくる者、死にゆく者」

人が少しずつ生まれ、少しずつ死んでいく世界の話。

なんとなく、「西の魔女が死んだ」を思い出した、なんとなく。

評価: まあよい

大樹連司「劇画・セカイ系」

セカイ系のボーイミーツガールのクライマックスの、その15年後を描くお話。
15年後の売れない小説家の主人公と、居候先のアラサー女性地方公務員と、6ヶ月かけて世界を救済した中学生のままの女の子との三角関係もの。
ウラシマ効果を扱った作品という側面もあります。

私にとっては「止めてくれ その術はオレに効く」系。※止めなくてもいい。
セカイ系は、世代なのでかなり効く。
セカイ系をよく味わい尽くしたその先にある味わいを楽しむ作品。
いわゆる「味の向こう側」ならぬ「セカイ系の向こう側」を味わうことができる。

評価: すき

高野史緒「G線上のアリア」

電話が存在する中世ヨーロッパのお話。歴史改変もの。

想像以上に、電話の歴史の語りが多かった。多すぎるとすら感じました。
もっと、その世界での登場人物同士の掛け合いがあるのかと思っていた。
改変歴史の語りがあまりに長いので、読みながら「てか、嘘じゃん」と若干冷めてしまった。
それくらい冗長に感じたということ。

評価: まあまあ

扇智史「アトラクタの奏でる音楽」

ARが高度に発達した京都が舞台のガール・ミーツ・ガールもの。百合SF。
路上ミュージシャンの女性と情報工学科のゼミ生の女性とが、
路上パフォーマンスをプログラムでリアルタイムに変奏するシステムを作る様子を描く。

警察から自転車に乗って逃げるシーンについては、
拡張現実上でパフォーマンスするならば、きっと個人情報は特定されるだろうから、逃げても意味がないのではとすこし思いました。
まあ、演出的には逃げるよね。疾走するよね。青春だもんね。

評価: よい

小田雅久仁「人生、信号待ち」

信号待ちしている間に、人生をまっとうする話。
高架下の信号で待っている間に、出会い・結婚・出産・孫の誕生・看取りなどの60年分のライフイベントを完遂する。

「2010年代SF傑作選2」に収録されている「11階」も良かったが、本作「人生、信号待ち」もよい。
「11階」と同じく、SFというよりも幻想小説寄りという印象。
せっかく出会えたのだから、もう少しパートナーとの掛け合いがあると良かった。作中の時間の流れの圧倒的な速さを表現するために、その点が削られてしまっているように思いました。

評価: 好き寄りのよい

円城塔「ムーンシャイン」

数字に対する共感覚者の少女が横たわる周りで、襲撃者たちから彼女を守るために、
教授たちは数学的な議論をして、「僕」は慣れない銃を構える。
一方、数字たちの世界の中で、少女は十九と十七の双子の兄弟と一緒に過ごす。
そういう話。

むずかしい。
何を食べたら、こういう小説を書けるのだろうか。

評価: むずかしい

新城カズマ「月を買った御婦人」

十九世紀後半のメキシコ随一の権力と美貌を持つ未亡人が、求婚してくる男性陣に月を所望するお話。
メキシコ版「竹取物語」。歴史改変もの。

でたなぁ、奴隷演算っ!
ジャンルSFといえば、奴隷演算のイメージが定着してしまいそう。

評価: まあまあ

あとがき

次に読んでみようかなと思った本のリストを挙げておこうと思います。

  • 日本SFの臨界点[怪奇篇] ちまみれ家族
  • 2010年代SF傑作選
  • 日本SF短篇50 V
  • ゼロ年代日本SFベスト集成
  • 不思議の扉 時をかける恋
    • 梶尾真治「美亜へ贈る真珠」収録
  • 不思議の扉 ありえない恋
    • 小林泰三「海を見る人」収録
  • 古橋秀之「ある日、爆弾がおちてきて」
  • 新井素子「今はもういないあたしへ…」
    • 「ネプチューン」収録

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