「わたしたちの怪獣」の感想

「わたしたちの怪獣」を読みました。
作者:久永実木彦
発行:2023年
受賞:2024年 第55回星雲賞 日本短編部門(小説)

まあまあおもしろかったです。

安定した品質の作品を生み出しているという印象。
描写はしっかりとして長め。
女子高生が車を運転するシーンが「わたしたちの怪獣」と「夜の安らぎ」で合計2️回あったので、そういうシーンが好きな人かもしれない。
終末ものの作品名がよく登場して、物語もそういう展開になりがちだったので、そういうのが好きな人かもしれない。

それぞれの作品に上から、怪獣・時間移動者・吸血鬼・ゾンビが登場する。
この中では「夜の安らぎ」が良かったかもしれない。
読んでいて変なところで引っかかることが無かったので。

各収録作品がいつどこで掲載されたものなのかがわからないのが気になった。
そういう短編集はあまり見たことがないので。
普通記載されているよね。

各作品について

わたしたちの怪獣

評価:まあまあ
妹が殺してしまった父を怪獣のところに車で捨てに行く女子高生の話。

物語の冒頭でいつどこで誰が何をしているのかの情報が出てくるのが、やや遅かった。
本作では「主人公が公園のブランコにいる」という情報が、始まって三ページ目にようやく登場する。なのでそこまでは、主人公は公園のベンチに座っているのかな、などと読み手が推測と補完をしなくてはいけなかった。
たとえば、冒頭の文章を「公園のブランコに座っているわたしを、取得したばかりの免許証のわたしがにらみつけている」として、可及的速やかに主人公の座標がわかるようにして欲しかった。
情景描写が比較的長めなので、その点も欲しい情報が遅れた要因だと思う。
周囲の詳細な描写をする前に、主人公の情報を優先して欲しい。

ちなみに、二ページ目で真夏とわかるが、これがお盆であると判明するのがニュースの日付情報が出てくる時である。たぶん。
お盆(しかも終戦記念日)という情報も早めに出してもよかったかなとちょっとだけ感じた。

主人公の女子高生をちょっと応援できなかった感がある。
死んだ父親を車に乗せて怪獣のところへ捨てに行くのはまあいいとして、どうして無人のコンビニで缶ビール(おそらくハイネケン)を買って飲むのかな。
よりによって、警察から無事逃れた後に、だよ。
その後に眠ってしまう展開の布石なのだろうけれど、読んでいて納得感は無かった。
たとえば「前日よく眠れなかった上に、父の死体を遺棄するための免許取得後初めての運転によって精神と肉体が疲弊していたため、警察から無事に逃れた安堵によりうっかり睡魔に襲われた」とかでいいのではないか、と思った。
それくらいビールというアイテムが、物語の中で寝落ちにしか効いていなかったと思う。
海外ドラマネタがちょくちょく登場していたところから察すると、作者がポストアポカリプスものの海外ドラマとかの影響を受けていて、こういう災害中の無人店で買い物するシーンを作中にどうしても入れたかったのかなと感じた。
そういう理由なら、仕方ない。

ぴぴぴ・ぴっぴぴ

評価:まあまあ
時間移動して事故を未然に防ぐ<声掛け>の非正規雇用者と違法アップロード動画の話。

動画投稿サイトの名称が<パイプス>であるという点を、「わたしたちの怪獣」と共有している。

夜の安らぎ

評価:よい
思いを寄せる従妹の血を盗んでしまった過去を持つ女子高生が、吸血鬼になろうとする話。

初め主人公が女子高生であるとは、なかなか分からなかった。
一応、健康診断で女子の順番の近くということで、読者に分かるようにしているとは思う。
けれどその健康診断が「全学年おなじ日程」という記述もあり、性別の判断がしにくかった。
ようやく性別がはっきりするのは、アルバイト中の主人公と女性の会話にて。
「わたしたちの怪獣」も同じような課題があったかもしれないが、表紙イラストという情報があったので、そちらの作品では引っかからなかった。

この作者の作品を読むときには、一人称が「わたし」なら女性で「ぼく」なら男性、と思って読み始めるのがいいかもしれない。
この短編集ではそういうふうに統一されている。

本書の中では一番良かったと思う。

『アタック・オブ・ザ・キラートマト』を観ながら

評価:うーん
Z級映画を見ようとしたら、ゾンビが街に現れたので映画館に籠城する話。

わたしがもっと終末ものの映画とかを観ていて、映画のネタがわかってあげられれば、もっと楽しめたかもしれない。


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