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「イマジネーションの戦争」の感想

「イマジネーションの戦争」を読みました。
もともと「おれはミサイル」を読みたかったのだが、その手段のひとつがこの本というわけ。ただし、分厚い…。

収録作品

  • 桃太郎(芥川龍之介)
  • 鉄砲屋(安部公房)
  • 通いの軍隊(筒井康隆)
  • The Indifference Engine(伊藤計劃)
  • 既知との遭遇(モブノリオ)
  • 烏の北斗七星(宮沢賢治)
  • 春の軍隊(小松左京)
  • おれはミサイル(秋山瑞人)
  • 鼓笛隊の襲来(三崎亜記)
  • スズメバチの戦闘機(青来有一)
  • 煉獄ロック(星野智幸)
  • 白い服の男(星新一)
  • リトルガールふたたび(山本弘)
  • 犬と鴉(田中慎弥)
  • 薄い街(稲垣足穂)
  • 旅順入城式(内田百閒)
  • うちわ(高橋新吉)
  • 悪夢の果て(赤川次郎)
  • 城壁(小島信夫)

あらすじと短評

ネタバレを含みます。

桃太郎(芥川龍之介)

桃太郎たちが鬼ヶ島の鬼たちを蹂躙する話。

桃太郎たち、怖い。

評価:まあまあ

鉄砲屋(安部公房)

武器商人が自身の利益のために、渡り鳥の捕獲という口実で島民に旧式銃を売る。
そして、最終的に隣島との戦争というさらなる自身の利益へといざなう話。

この話は、
「アメリカ」を武器商人たちや所有物すべてに名前をつける自由主義思想に、
「日本」を口車に乗せられる島民たちに、
それぞれなぞらえた寓話として読めるかもしれない。
作品発表当時にそういう意図があったかはわからないけれども。
ただし、話に引き込まれていない序盤に、“馬の目"島の詳細情報をつらつらと説明されても困るなーとは思いました。
あと、ところどころ登場人物の言動が理解不能な部分がありました。時代がちがうからかもしれません。

評価:なくはない。こういう風刺もありなのだろう

通いの軍隊(筒井康隆)

銃製造会社であるサンコー工業ガリビア支社の支店長が、陸軍省に納入した不良ライフルの修理のために、戦地に通勤させられる話。

夫としての自分とその妻。
部下や従業員としての自分とその上司。
それらの対比をふまえつつ、サラリーマン風に戦争を描写する作品。

評価:あり

The Indifference Engine(伊藤計劃)

ゼマ族とホア族とが争う紛争に巻き込まれた少年兵たちのお話。
停戦後、外国人たちに心に注射をうたれる。
その後、その公平化機関《Indifference Engine》の効果により、ゼマ族とホア族との区別ができなくなってしまう。

評価:すごくおもしろい。すき

既知との遭遇(モブノリオ)

核兵器、戦争とマスメディア、言論や思想の統制などを扱った掌編小説集か。

うーん。
扱っているテーマは、たしかにこの本に合っている。
ただしそれだけであり、おもしろくはなく、読み返したくなるような味もしない。

評価:おもしろくはない

烏の北斗七星(宮沢賢治)

烏の群れを戦艦に見立て、許嫁との対話や山烏との戦いを描くお話。

マヂエル様という北斗七星が概念として登場するが、どう考察してよいか分からなかった。
おそらく史実の戦争に由来するものなのだろうとは思う。
著者の生きた時代・戦艦に見立てた点・北を連想する北斗七星などを合わせて考えると、日露戦争あたりにヒントがあるのだろうか。

評価:なくはない

春の軍隊(小松左京)

新興住宅地に建つ新築の我が家をでて、春のうららかな村道を歩いていくと、所属不明の軍隊同士の戦争に出くわす。
日本各地で同時多発的に突如はじまる両軍の戦争に、日本国も自衛隊も市民も巻き込まれてしまう。

よかった。
特に、新築の我が家での主人公の「ここで戦争しないでくれ!」というセリフが印象に残る。
この小説ならではのセリフだと思います。

以前から「小松左京」という作家の名前は知っていましたが、小説を読むのはこれがはじめてでした。
風景や軍事や政治の描写がいずれもしっかりしていました。
そのため、小説の中の戦争を身近に感じることができたように思います。
さすが、とおもいながら読み終えた。

評価:すごくよかった

おれはミサイル(秋山瑞人)

舞台は超高高度の空。
自己の生存を最優先する宿命の戦闘機が、ある日からミサイルたちの声が聞こえるようになり、交流を深める話。
「地上《グランド》」の存在を信じるものは、誰もいない。

すごくおもしろかったです。
また、戦闘機やミリタリーに関する知識が欲しぃぃぃと思いながら読みました。
自己の生存を最優先する宿命の戦闘機と、敵機の爆破と自身の死を切望するミサイルたちとの対比と対話が、すごく面白かった。
ミサイルの「01」が七十五年以上発射されていないと判明するくだりで結末を予感させた上で、予想を上回る結末を描く。著者の力量がなせる技だと思いました。

評価:すごくおもしろい。すき

鼓笛隊の襲来(三崎亜記)

台風のように赤道上で発生した鼓笛隊が襲来し、「ハーメルンの笛吹き男」のように人々がそれについて行ってしまう。
戦後最大の災害に見舞われる家族の一夜を描く。

よかった。
設定は「鼓笛隊が襲来する」という奇抜なものではあるが、
一方で描写については、義母や隣人との関係性を、短い話のなかでうまくまとめているように感じました。

評価:よかった

スズメバチの戦闘機(青来有一)

歴史書に夢中で過去の戦争や騒乱にくわしい少年が、裏山のスズメバチを戦闘機として幻想し、戦争に赴く話。
主な登場人物:少年、母、裏山の老人、スズメバチたち。

少年らしい観察眼や行動と同時に、少年とは思えないリアリティのある幻想が描かれている。
原爆の描写があったので著者の経歴を調べてみたら、長崎出身であることを知り、なるほどと思った。

評価:よい

煉獄ロック(星野智幸)

新務帝を元首とする戦時中の神州を舞台に、言動や性や市民階級などが徹底管理された社会から逃れて、自由を求めようとする若い男女を描く。
ディストピアもの。

ほかの収録作品よりもページ数が多いわりには、個人的には感じるものが少なかった。

評価:うーん

白い服の男(星新一)

平和を維持する秘密警察のお話。
戦争あったという事実や概念そのものを無くすために閉鎖図書館で文書を改変したり、
戦争に少しでも関心を持った人々を秘密警察が徹底的に粛清したりする世界。
具体的には、戦争のことを「セ」としか言えないくらい戦争表現の弾圧がきびしい。

シンプルでありながら、ちゃんと面白みがある。

評価:おもしろい

リトルガールふたたび(山本弘)

二十一世紀初頭、日本は知的レベルが下がる『低IQ化スパイラル』に陥っていた。
そして、洒落で誕生した政党が政権を握り、核兵器を保有しアメリカに発射してしまう。
その後のクーデターにより軍事独裁政権が誕生してしまった2109年の日本のお話。
シニカルなディストピアもの。

登場人物の名字が、「THE IDOLM@STER」のキャラ名に由来しているとは思わなかった。

日本のネットの悪いところがよく描けているなーと思ったら、
そういうサブカルやネットカルチャーに対して造詣が深いということでしたか。

評価:あり

犬と鴉(田中慎弥)

二度の戦争により祖父母と母をなくし、父は戦地から帰還後に図書館を占拠し人を殺めている。そんな父に祖父の万年筆で手紙を書いて届ける。
敵から送り込まれた犬は戦争に関わった悪人は食らうが、病人の主人公は襲わない。
壕の中での死んだ祖母との会話で、悲しみで腹をみたすという話題が登場する。

ひたすらに暗澹とした小説だった。
描写はしっかりとしているものの、しかし、かなり冗長な印象を受けました。
物語の構成要素たちはそれぞれ意味ありげなようで、結局意味ありげなだけで終わったという気もします。
ただし、もしかしたら著者の経歴や人生から、何かを察することができるのかもしれません。
著者に特別の関心を持っていない状態でこの短編集を読む場合、この小説を挫折せずに読むのは、きっとかなりの苦難でしょう。

評価:なし

薄い街(稲垣足穂)

ディストピア風な幻想都会を質問と回答で紹介する小説。

  • 笑ったりしゃべったりすると刑法に触れる。文字はあるが記号的で、人名は番号。
  • 衣服のカラーは総じて薄く、性別の区別がつきにくい。いざというときに「挨拶箱」両者が利用する。
  • 蝙蝠のように逆さにぶら下がって過ごし、食べ物は政府から供給される栄養ガスを尻から摂取する。
  • 故障の際には治療のための特別なガスを供給し、それでもだめならば郊外にすむ原始的な男性の注射器によって体内に霊液を受けて、回復する。
  • 「消滅局」という機関が、いつまでに消滅すべしという課税を割り当てる。

よくわからない世界観をたのしむものなのかもしれない。

評価:よくわからない

旅順入城式(内田百閒)

法政大学の講堂での写真会で、日露戦争の旅順入城式を振り返る話。

当時の様子を知るための文章としてあり。

評価:あり

うちわ(高橋新吉)

日米開戦の1941年12月8日ごろ、狂人であることを自覚しない男が、京都を徘徊してから精神病院に収容されるまでを描く。
男は新聞報道は信じず、新しい医学も信じない。
周囲が自分を欺くために、すべては仕組まれたことだと信じている。

戦争に対する皮肉を感じる。
と思ったら、著者は日本のダダイスト詩人、という存在らしい。
この作品には著者自身の経験が反映されていそう。

評価:あり…なのかもしれない

悪夢の果て(赤川次郎)

<教育改革審議会>が奉仕活動の義務化の答申を承認する。いずれ実質的な徴兵制になるかもしれない。
その答申に反対していた一流大学の教授である主人公が、家族のいる自宅で眠り、目覚めると終戦直前の時代にタイムスリップしていた話。

赤川次郎を読むのは、これがはじめて。
テーマがとてもわかりやすく、おもしろかった。
他の収録作品と比べて、改行が多いのが印象的だった。

評価:おもしろい

城壁(小島信夫)

アジア太平洋戦争の中国の城壁に駐留する日本軍が、敵地区掃討からもどると、城壁がそっくりなくなっている。

以下の掛け合いが印象的だった。

「何のために、ここにいるのですか」
「『城壁』を守るためだ」「だからこそ探すのだ」

評価:よい


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